祟り神さんの顔
その面布の下にあるだろう顔が、美しかろうと、醜かろうと。
その喉から溢れる声が。唇で紡ぐ言葉が。垣間見える思想が。私の望むものであろうとなかろうと、生活と活動に支障がないならどうでもよかった。
私にとって彼の存在は、生きるための手段以上でも以下でもないから。
空気を吸わねば死ぬように、水を飲まねば死ぬように、飯を食わねば死ぬように、私を維持するには彼の力が必要で、だから共にいるだけだ。
強いて思う事を挙げるのであれば――「殺してもらうために邂逅した存在と生きるために生きている現状は奇妙だ」とか、そのあたりになるだろうか?
ビジネスライク。友達ではない。手は組んでいるが仲間という感覚でもない。同族ではあるというか、同じ穴の狢……なのかもしれない。
距離を縮める気にならないのは、先に述べた通り私自身が重要視していないのもあるし、純粋に向こうが嫌がるのもある。
今や互いに最も近くにいる他人だし、私は「興味がない」わけではない、けど。面布をめくろうとしてこっぴどく叱られたり、それとなく過去を詮索して突っぱねられた経験から触れないことに決めていた。
この身において現状維持に勝る優先事項なんてある筈もなく。
だから、雑魚神サマの顔を見てしまったのは、言うなれば"事故"だった。
――いつも通り"囲った"空間の中、標的を殺そうと金槌を振り上げた丁度その瞬間。どこから紛れ込んだのか、突如姿を現した怪異狩りが退魔の刀を振りかぶり駆け込んでくる。
咄嗟に反応できるはずもなく、掲げられた刃が月明かりに煌めくのを視界の端に捉えたと思えば、私の身体は後方へ突き飛ばされて。
仰向けに倒れ頭を打ちそうになったところ、受け身を取って体勢を整えた頃には、既に目の前には祟り神さんが、私を庇うように立ちふさがっていた。
時間が止まったような一瞬の間の後、祟り神さんとその向こう側にいるであろう怪異狩りの間で、ぼたぼたと液体の落ちる音が聞こえる。
「……あー。」
凡そ何が起きたのかあたりをつけながら側面へ回り込むと、祟り神さんの腕が怪異狩りの胸を貫き、その心臓を握りつぶしていた。
「今回の怪異って撲殺タイプじゃなかったですっけ?」
「死体、残してくと逸話と現場がズレちゃいますよ」だなんて、腰を抜かしつつ這ってでも逃げようとしていた標的の頭を、忘れないうちにかち割りながら軽口を投げる。
こういう、怪異を払う事を目的とした輩から奇襲を受けるのは、別に珍しいことじゃない。
「現代っ子はお礼もまともに言えねェのか」
日頃から低い声を不機嫌そうに唸らせ悪態をつく祟り神さんは、喋り始めればやっぱりいつもの雑魚神サマだ。
雑魚神サマが、腕を怪異狩りの胴からずるりと引き抜くと、ばっと吹きこぼれる赤、赤、赤。
ぐしゃりと頽れたソレは、さっきまで生きていた事の方が異常ではないかと錯覚するほど自然に死んでいて。その手で潰した心臓も、別段喰う訳でもなし、死骸のあたりに放り捨てるのが無情にも"らしい"。
そうして手を自由にして、数度振って血を払いながらこちらを振り向いた彼の顔を見て、私は思わず凍り付く。
いつもその顔を覆い隠している、白字に単眼が描かれた面布が、切り落とされなくなっていたから。
人里の夜空のような鈍い黒髪が、額の天地中央あたりの高さで、受けた太刀筋のままばつりと切りそろえられている。
面相筆で朱を引いたような細い線が、青白い肌に一筋。刹那の後、ふつふつと浮き上がる血液の雫。
表面張力の限界を超え、幾筋かに分かれたらりと彼の顔面を滑る血液を眺める。
視界の端で舞い落ちる、ほんの数十秒前まで面布であった白い布もまた、その断面に赤錆を滲ませ。
しかしなにより驚いたのは、思いのほか目の前の神様の顔立ちに馴染みがあったことだ。
「かみさま。あの、顔――」
「……あ"? ……あぁ」
指摘を受け、視線を受けた額に軽く触れて。漸く顔を覆うものがなくなっていることに気づいたのだろう。しかし、「油断したわ」とぼやく姿は面布を死守しようとしたいつかの慌てようが嘘のような落ち着きぶりだ。
「ゆーてそもそも紛れ込ましたトコからだが」
「……そうですね。そゆとこほんと雑魚神サマクオリティって感じでマジ勘弁です…………けど、そうじゃなくて」
「…………だから見られたくなかったんだよ」
小さく唸り吐き捨てる雑魚神サマの、苛々と吊り上がる目。墨を交えたような濁りでわかりづらいが、夜の始まりと終わりに似た藍色は見紛う筈もない。私の家族と同じ色の瞳、で。
「私……というか、パパですかね。その顔は。…………本家筋の、ご先祖様……ですか?」
「つっても妾腹の子だけどな。」
「あ、はは。……お揃いですね」
「ハッ。冗談ほざく元気があんならよかったわ」
「顔くらいじゃなにも。……なにも、変わりませんよ。」
「嘘こけ」
「……どうして本家筋の方が祟り神をしているのかは、正直気になります。」
「どうして、ねェ? 俺が一番聞きたいわ、それ。」畳む
その面布の下にあるだろう顔が、美しかろうと、醜かろうと。
その喉から溢れる声が。唇で紡ぐ言葉が。垣間見える思想が。私の望むものであろうとなかろうと、生活と活動に支障がないならどうでもよかった。
私にとって彼の存在は、生きるための手段以上でも以下でもないから。
空気を吸わねば死ぬように、水を飲まねば死ぬように、飯を食わねば死ぬように、私を維持するには彼の力が必要で、だから共にいるだけだ。
強いて思う事を挙げるのであれば――「殺してもらうために邂逅した存在と生きるために生きている現状は奇妙だ」とか、そのあたりになるだろうか?
ビジネスライク。友達ではない。手は組んでいるが仲間という感覚でもない。同族ではあるというか、同じ穴の狢……なのかもしれない。
距離を縮める気にならないのは、先に述べた通り私自身が重要視していないのもあるし、純粋に向こうが嫌がるのもある。
今や互いに最も近くにいる他人だし、私は「興味がない」わけではない、けど。面布をめくろうとしてこっぴどく叱られたり、それとなく過去を詮索して突っぱねられた経験から触れないことに決めていた。
この身において現状維持に勝る優先事項なんてある筈もなく。
だから、雑魚神サマの顔を見てしまったのは、言うなれば"事故"だった。
――いつも通り"囲った"空間の中、標的を殺そうと金槌を振り上げた丁度その瞬間。どこから紛れ込んだのか、突如姿を現した怪異狩りが退魔の刀を振りかぶり駆け込んでくる。
咄嗟に反応できるはずもなく、掲げられた刃が月明かりに煌めくのを視界の端に捉えたと思えば、私の身体は後方へ突き飛ばされて。
仰向けに倒れ頭を打ちそうになったところ、受け身を取って体勢を整えた頃には、既に目の前には祟り神さんが、私を庇うように立ちふさがっていた。
時間が止まったような一瞬の間の後、祟り神さんとその向こう側にいるであろう怪異狩りの間で、ぼたぼたと液体の落ちる音が聞こえる。
「……あー。」
凡そ何が起きたのかあたりをつけながら側面へ回り込むと、祟り神さんの腕が怪異狩りの胸を貫き、その心臓を握りつぶしていた。
「今回の怪異って撲殺タイプじゃなかったですっけ?」
「死体、残してくと逸話と現場がズレちゃいますよ」だなんて、腰を抜かしつつ這ってでも逃げようとしていた標的の頭を、忘れないうちにかち割りながら軽口を投げる。
こういう、怪異を払う事を目的とした輩から奇襲を受けるのは、別に珍しいことじゃない。
「現代っ子はお礼もまともに言えねェのか」
日頃から低い声を不機嫌そうに唸らせ悪態をつく祟り神さんは、喋り始めればやっぱりいつもの雑魚神サマだ。
雑魚神サマが、腕を怪異狩りの胴からずるりと引き抜くと、ばっと吹きこぼれる赤、赤、赤。
ぐしゃりと頽れたソレは、さっきまで生きていた事の方が異常ではないかと錯覚するほど自然に死んでいて。その手で潰した心臓も、別段喰う訳でもなし、死骸のあたりに放り捨てるのが無情にも"らしい"。
そうして手を自由にして、数度振って血を払いながらこちらを振り向いた彼の顔を見て、私は思わず凍り付く。
いつもその顔を覆い隠している、白字に単眼が描かれた面布が、切り落とされなくなっていたから。
人里の夜空のような鈍い黒髪が、額の天地中央あたりの高さで、受けた太刀筋のままばつりと切りそろえられている。
面相筆で朱を引いたような細い線が、青白い肌に一筋。刹那の後、ふつふつと浮き上がる血液の雫。
表面張力の限界を超え、幾筋かに分かれたらりと彼の顔面を滑る血液を眺める。
視界の端で舞い落ちる、ほんの数十秒前まで面布であった白い布もまた、その断面に赤錆を滲ませ。
しかしなにより驚いたのは、思いのほか目の前の神様の顔立ちに馴染みがあったことだ。
「かみさま。あの、顔――」
「……あ"? ……あぁ」
指摘を受け、視線を受けた額に軽く触れて。漸く顔を覆うものがなくなっていることに気づいたのだろう。しかし、「油断したわ」とぼやく姿は面布を死守しようとしたいつかの慌てようが嘘のような落ち着きぶりだ。
「ゆーてそもそも紛れ込ましたトコからだが」
「……そうですね。そゆとこほんと雑魚神サマクオリティって感じでマジ勘弁です…………けど、そうじゃなくて」
「…………だから見られたくなかったんだよ」
小さく唸り吐き捨てる雑魚神サマの、苛々と吊り上がる目。墨を交えたような濁りでわかりづらいが、夜の始まりと終わりに似た藍色は見紛う筈もない。私の家族と同じ色の瞳、で。
「私……というか、パパですかね。その顔は。…………本家筋の、ご先祖様……ですか?」
「つっても妾腹の子だけどな。」
「あ、はは。……お揃いですね」
「ハッ。冗談ほざく元気があんならよかったわ」
「顔くらいじゃなにも。……なにも、変わりませんよ。」
「嘘こけ」
「……どうして本家筋の方が祟り神をしているのかは、正直気になります。」
「どうして、ねェ? 俺が一番聞きたいわ、それ。」畳む
混沌・中庸
聖杯戦争TRPG世界の図地藤華(notマスターかつnot監督役)が、「自身が参加していない聖杯戦争」の見物人をしていた時のRP(セリフだけ)。
教会(敗退者保護部屋)で、敗れたよそさまのマスターさんとお話しした時の様子。例によってわたしが書いた部分だけ(流れが分からなくなるので、お相手さんのレスポンスもニュアンスだけ書いてます)
>>1522のマスター図地君とは違う世界線です。
性格等は「聖杯戦争の監督役」をしてる世界が近いですが、この世界の彼はこの後も、マスターにも監督役にもなりません。
「やあ」朗らかな青年の声が壁の向こうから。
「懺悔室で一休みとは不敬だね」言葉と裏腹に口ぶりは楽しげ
//警戒
「それもそうだね」
「第一、僕も貴方と同じで、ここに暇つぶしに来てる訳だから同罪かな」あはは
//フレーバー人間観察宣言
「似てるかな? そうかもしれない」こつ、こつと手遊びに壁を反対側から叩いて。
容姿、見てないよね? それじゃあスキルの使用条件は満たさないなぁ。
//食えない奴
よく言われるよ。
「僕はただ見学しに来ただけで、貴方にも彼女等にも、このゲームに対しても何もする気はないから警戒の必要は無い」
「ただ、貴方が一人で寂しそうだなと思ったから声をかけただけだ」
//これからどうしようか考えている
「これからのこと、か」ふぅん
//警戒
「警戒心がすごいな」率直な感想
「えー。じゃあもう少しだけ崩して喋ろうか?」困っちゃうなまったく
//警戒
「そうかなぁ」
「盤面から取り除かれた駒を潰して楽しむような、悪辣な趣味はないんだけど。生産性がないし。」まあ、是非もないか。怪しいのは否定できないしね。
//警戒
「聖杯は欲しいけど、今回は出遅れちゃったからね。いつか、どこかでまたコトが起こって、そこに貴方も参加するならその時は確かに敵だけど」
「今はただの通りすがりだ」
「…………で、これからのことだけど。敢えて口にするってことは、元の生活にまるっきり戻るつもりはあまりないんだよね。何かしたいことでも?」興味本位。
//
「"訳にもいかない"ね。なら、使命感か」
//何もしないと死ぬ
「わぁ。それは面倒だね」
「やらねばならぬもありつつも、主には、平和に過ごすためにこれからどうするべきか。みたいな話か。」
//大勢に強襲される可能性が高い
「それこそあっちのお嬢様とかに頼ってみれば? 匿うまではいかずとも軍資金くらいは恵んでくれるかも」お人好しっぽいし。
「去勢が条件になりそうだけどね」あはは
//カタギに頼る気はない
「成程。……カタギじゃないお人好し、ってなると」今回の参加者の中だと、確かー
「ランサーのマスターが現役魔術師だったような。」
//最近あの人家買ったらしい
「へー。そんなことが。流石魔術師、羽振りがいいね」
「もしくは、僕とかどう?」楽しそうに
「魔術師、じゃないけど所謂カタギではないし、正面戦闘は防戦一方だけど、まあ中々役に立つと思うよ」なんにでも首を突っ込みたがる愉快犯。
//警戒
「本気で信用されようと思ってたらもう少し違う形で口にしてるよ」あはは
あみあみの向こう側にてカップで紅茶を飲んでいます。優雅ですね。
//見返りを求められた方がまだ信用できる
「ん。そうだな。竹浪さんみたいな人には嫌われそうだけど」
「僕は面白いものが見られればそれでいいから」ことり、とカップをソーサーに置き
「くれるものがあるなら有難く貰うけどね」
//もう少し早く来れば自分達が敗れた激戦が見れただろう(悪態)
「…………あはは。まあ、派手なぶつかり合いも面白いけど」
「結局僕が一番見たいのは人の情動と、物語だから」虐殺や戦争に快は見出さずとも、他人のことを娯楽としていることには変わりなく。
「今回は、ちゃんといいものが見れたと思ってるよ。お気遣いありがとう」殴ってやる、には触れず。
「さ、て。アドバイスの結論としては、ランサーのマスターに声をかけてみよう!とかそのあたりになるのかな?」立ち上がって、ぐっとのびを。
殴られたくないし。部屋を出ようかな。
「それじゃ、良い人生を。」壁越しながらにこやかに、そう言って。
//舌打ち
たぶん、もう会う事も無いだろうけどね。健闘を祈るよ。 畳む
聖杯戦争TRPG世界の図地藤華(notマスターかつnot監督役)が、「自身が参加していない聖杯戦争」の見物人をしていた時のRP(セリフだけ)。
教会(敗退者保護部屋)で、敗れたよそさまのマスターさんとお話しした時の様子。例によってわたしが書いた部分だけ(流れが分からなくなるので、お相手さんのレスポンスもニュアンスだけ書いてます)
>>1522のマスター図地君とは違う世界線です。
性格等は「聖杯戦争の監督役」をしてる世界が近いですが、この世界の彼はこの後も、マスターにも監督役にもなりません。
「やあ」朗らかな青年の声が壁の向こうから。
「懺悔室で一休みとは不敬だね」言葉と裏腹に口ぶりは楽しげ
//警戒
「それもそうだね」
「第一、僕も貴方と同じで、ここに暇つぶしに来てる訳だから同罪かな」あはは
//フレーバー人間観察宣言
「似てるかな? そうかもしれない」こつ、こつと手遊びに壁を反対側から叩いて。
容姿、見てないよね? それじゃあスキルの使用条件は満たさないなぁ。
//食えない奴
よく言われるよ。
「僕はただ見学しに来ただけで、貴方にも彼女等にも、このゲームに対しても何もする気はないから警戒の必要は無い」
「ただ、貴方が一人で寂しそうだなと思ったから声をかけただけだ」
//これからどうしようか考えている
「これからのこと、か」ふぅん
//警戒
「警戒心がすごいな」率直な感想
「えー。じゃあもう少しだけ崩して喋ろうか?」困っちゃうなまったく
//警戒
「そうかなぁ」
「盤面から取り除かれた駒を潰して楽しむような、悪辣な趣味はないんだけど。生産性がないし。」まあ、是非もないか。怪しいのは否定できないしね。
//警戒
「聖杯は欲しいけど、今回は出遅れちゃったからね。いつか、どこかでまたコトが起こって、そこに貴方も参加するならその時は確かに敵だけど」
「今はただの通りすがりだ」
「…………で、これからのことだけど。敢えて口にするってことは、元の生活にまるっきり戻るつもりはあまりないんだよね。何かしたいことでも?」興味本位。
//
「"訳にもいかない"ね。なら、使命感か」
//何もしないと死ぬ
「わぁ。それは面倒だね」
「やらねばならぬもありつつも、主には、平和に過ごすためにこれからどうするべきか。みたいな話か。」
//大勢に強襲される可能性が高い
「それこそあっちのお嬢様とかに頼ってみれば? 匿うまではいかずとも軍資金くらいは恵んでくれるかも」お人好しっぽいし。
「去勢が条件になりそうだけどね」あはは
//カタギに頼る気はない
「成程。……カタギじゃないお人好し、ってなると」今回の参加者の中だと、確かー
「ランサーのマスターが現役魔術師だったような。」
//最近あの人家買ったらしい
「へー。そんなことが。流石魔術師、羽振りがいいね」
「もしくは、僕とかどう?」楽しそうに
「魔術師、じゃないけど所謂カタギではないし、正面戦闘は防戦一方だけど、まあ中々役に立つと思うよ」なんにでも首を突っ込みたがる愉快犯。
//警戒
「本気で信用されようと思ってたらもう少し違う形で口にしてるよ」あはは
あみあみの向こう側にてカップで紅茶を飲んでいます。優雅ですね。
//見返りを求められた方がまだ信用できる
「ん。そうだな。竹浪さんみたいな人には嫌われそうだけど」
「僕は面白いものが見られればそれでいいから」ことり、とカップをソーサーに置き
「くれるものがあるなら有難く貰うけどね」
//もう少し早く来れば自分達が敗れた激戦が見れただろう(悪態)
「…………あはは。まあ、派手なぶつかり合いも面白いけど」
「結局僕が一番見たいのは人の情動と、物語だから」虐殺や戦争に快は見出さずとも、他人のことを娯楽としていることには変わりなく。
「今回は、ちゃんといいものが見れたと思ってるよ。お気遣いありがとう」殴ってやる、には触れず。
「さ、て。アドバイスの結論としては、ランサーのマスターに声をかけてみよう!とかそのあたりになるのかな?」立ち上がって、ぐっとのびを。
殴られたくないし。部屋を出ようかな。
「それじゃ、良い人生を。」壁越しながらにこやかに、そう言って。
//舌打ち
たぶん、もう会う事も無いだろうけどね。健闘を祈るよ。 畳む
"切願"
聖杯戦争TRPG、マスター時空の図地藤華の奥義描写。
>>1519の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
欲しいものがあった。
それが手に入るなら、僕は、富も名声も幸福も、根源も知識も、何もいらなかった。
躰が、心が、意義が、意志が、尊厳が、ズタズタに引き裂かれて踏み躙られたってべつに構わなかった。
劇薬を。
爆弾を。
悲劇でもいい。観客の数は問わない。ただ、劇的な運命を。
誰も無視できない世界の中心に居る僕を、僕は狂おしいほど願い求めていた。
バカみたいに贅沢だ。
頭では理解していた。だから目を逸らした。
逃れようと足掻き、藻掻き、死に物狂いで手放した。
なのに。
――そんな"切願"を、誰かが拾って僕に抱かせた。
願いが叶い、運命に指先が触れた。掴む勇気が出ないまま少し時間が経って。
……そこに、君が現れた。
シオリさん。
君が、僕の抱く贅沢で陳腐な願望を、"善い"と微笑み肯定してくれたから。
僕の願いを本気で願ってくれたから。
だから。
だから僕は、今、此処に、確固たる意味を持って立ちたいんだ。
僕の願いを、我儘に願いたいんだ。
そして、僕もまた君の願いを、心の底から願いたいんだ。
今はただそのために、僕は勝ちたいんだよ。
"切願"を起源に抱く少年は、正に舞台から蹴落とされる、その淵の淵で未だ願う。
自身を貫く原初の一に目醒め、その願いに、想いに、どこまでも塗り潰されていく。
――なぁ、知ってるかい? 図地君。
藤の華は、丁度四月の暮れに咲くんだ。
……緞帳が上がる様を。境界を巻き取る歯車の音を。潜みさざめく観客の息遣いを夢想する。
視線と言う名のスポットライトに照らされて、僕は一歩踏み出し、手袋をつけた右手を掲げ。
タネも仕掛けもありません。
ここにあるのは、僕の"切願"、ただひとつ。
「アサシン」僕の使い魔としての、彼女の名前を呼んで。
「令呪をもって命ずる」
深呼吸と、薄い笑みをひとつ。
頭の中で幾度となくなぞった輪郭へ僕を合われば、心の中で何度も唱えた台詞が、まるで糸に引かれるが如く唇から零れていく。
「――暗殺者の名に相応しい成果を、僕に齎せ。」
手の甲を灼く熱を感じる。あるいは、"想像しただけ"かもしれないけれど、隔てる幕の上がった今、それらの境は既に無いし、どっちだろうと構わない。
世界にとって嘘であろうと、僕にとっては本当だ。
動きも言葉も、心までもが何ひとつ変わらないなら、現実なんて、この際どうだっていいだろ?
「重ねて」
声を張る。誰よりも堂々と。美しく手を掲げて凛と。
やさしい願いを抱く女神の傍らでなお、霞まぬように。
亡き先輩がいつか観る記録の中で、主人公としてあれるように。
ふたつの運命へ、すべてを賭けて捧げるように。
そう、振舞えるように。
「サンタ・ムエルテ」死の聖女たる、彼女の名前を呼んで。
「令呪を捧げ願おう」
一柱の"神様"へ、僕は願う。
始まりはどうあれ、神に対する信頼は信仰に等しい。
そしてその行方が、あらゆる願いを叶える万能の聖女とあらば。
成就は必然、だ。
「死の絶対を。その恐怖を、僕等の相対するもの達へ齎せ――!!」
言の葉は恙なく、けれど相応の重みをもって。
手の甲に燃える一画をまた鮮明に想い描きながら、僕はどこまでも美しく、一礼を。
舌先三寸口先ひとつ。うそとまことは紙一重。
今宵この場は正しく"舞台の上"なれば、役者の台詞が見抜けないのは寧ろ正しいことだから。
オペラグラス越しに真実を見ようだなんて心底バカバカしい。
そうだろ?
/////
『シオリさん』念話にて。僕の友人である、君の名前を呼んで。
『令呪はないけど――』
『頼みごと、してもいいかな』これは、神への祈りでも使い魔への命令でもなく、一人の友人への協力要請。
『僕の隣で、どこまでも』
『君と僕が望むままの、サンタ・ムエルテで、あれ。』
万人の願いを受け入れる、万能の"神様"であれ。
死をもって生を祈ぐ、心優しい聖女であれ。
願うよ。君の願いは綺麗だから、そうであれと僕も願う。
その願いが、どこまで、届くのかは。
運命が、決めることだから。畳む
聖杯戦争TRPG、マスター時空の図地藤華の奥義描写。
>>1519の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
欲しいものがあった。
それが手に入るなら、僕は、富も名声も幸福も、根源も知識も、何もいらなかった。
躰が、心が、意義が、意志が、尊厳が、ズタズタに引き裂かれて踏み躙られたってべつに構わなかった。
劇薬を。
爆弾を。
悲劇でもいい。観客の数は問わない。ただ、劇的な運命を。
誰も無視できない世界の中心に居る僕を、僕は狂おしいほど願い求めていた。
バカみたいに贅沢だ。
頭では理解していた。だから目を逸らした。
逃れようと足掻き、藻掻き、死に物狂いで手放した。
なのに。
――そんな"切願"を、誰かが拾って僕に抱かせた。
願いが叶い、運命に指先が触れた。掴む勇気が出ないまま少し時間が経って。
……そこに、君が現れた。
シオリさん。
君が、僕の抱く贅沢で陳腐な願望を、"善い"と微笑み肯定してくれたから。
僕の願いを本気で願ってくれたから。
だから。
だから僕は、今、此処に、確固たる意味を持って立ちたいんだ。
僕の願いを、我儘に願いたいんだ。
そして、僕もまた君の願いを、心の底から願いたいんだ。
今はただそのために、僕は勝ちたいんだよ。
"切願"を起源に抱く少年は、正に舞台から蹴落とされる、その淵の淵で未だ願う。
自身を貫く原初の一に目醒め、その願いに、想いに、どこまでも塗り潰されていく。
――なぁ、知ってるかい? 図地君。
藤の華は、丁度四月の暮れに咲くんだ。
……緞帳が上がる様を。境界を巻き取る歯車の音を。潜みさざめく観客の息遣いを夢想する。
視線と言う名のスポットライトに照らされて、僕は一歩踏み出し、手袋をつけた右手を掲げ。
タネも仕掛けもありません。
ここにあるのは、僕の"切願"、ただひとつ。
「アサシン」僕の使い魔としての、彼女の名前を呼んで。
「令呪をもって命ずる」
深呼吸と、薄い笑みをひとつ。
頭の中で幾度となくなぞった輪郭へ僕を合われば、心の中で何度も唱えた台詞が、まるで糸に引かれるが如く唇から零れていく。
「――暗殺者の名に相応しい成果を、僕に齎せ。」
手の甲を灼く熱を感じる。あるいは、"想像しただけ"かもしれないけれど、隔てる幕の上がった今、それらの境は既に無いし、どっちだろうと構わない。
世界にとって嘘であろうと、僕にとっては本当だ。
動きも言葉も、心までもが何ひとつ変わらないなら、現実なんて、この際どうだっていいだろ?
「重ねて」
声を張る。誰よりも堂々と。美しく手を掲げて凛と。
やさしい願いを抱く女神の傍らでなお、霞まぬように。
亡き先輩がいつか観る記録の中で、主人公としてあれるように。
ふたつの運命へ、すべてを賭けて捧げるように。
そう、振舞えるように。
「サンタ・ムエルテ」死の聖女たる、彼女の名前を呼んで。
「令呪を捧げ願おう」
一柱の"神様"へ、僕は願う。
始まりはどうあれ、神に対する信頼は信仰に等しい。
そしてその行方が、あらゆる願いを叶える万能の聖女とあらば。
成就は必然、だ。
「死の絶対を。その恐怖を、僕等の相対するもの達へ齎せ――!!」
言の葉は恙なく、けれど相応の重みをもって。
手の甲に燃える一画をまた鮮明に想い描きながら、僕はどこまでも美しく、一礼を。
舌先三寸口先ひとつ。うそとまことは紙一重。
今宵この場は正しく"舞台の上"なれば、役者の台詞が見抜けないのは寧ろ正しいことだから。
オペラグラス越しに真実を見ようだなんて心底バカバカしい。
そうだろ?
/////
『シオリさん』念話にて。僕の友人である、君の名前を呼んで。
『令呪はないけど――』
『頼みごと、してもいいかな』これは、神への祈りでも使い魔への命令でもなく、一人の友人への協力要請。
『僕の隣で、どこまでも』
『君と僕が望むままの、サンタ・ムエルテで、あれ。』
万人の願いを受け入れる、万能の"神様"であれ。
死をもって生を祈ぐ、心優しい聖女であれ。
願うよ。君の願いは綺麗だから、そうであれと僕も願う。
その願いが、どこまで、届くのかは。
運命が、決めることだから。畳む
満ち足りた表情で。
聖杯戦争TRPG、マスター時空の言葉悟の死に際。
責任感が強いがゆえに責任が嫌いな男。
>>1520の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
RPなのでお相手さんの短いレスポンスが挟まっているのですが、あれがそれなのでわたしの書いた部分のみ。
「…………はーーーー」
「頑張ったと思うんだけど、さ。まあ安心しろ」
「お前にはなんも背負わせないから」
これだけは、一番初め。出会った頃から決めていた。
運命じゃない。俺の選択で生まれた縁だ。あとを濁さない程度の始末はするさ。
まずは一画。
「令呪を持って命ずる。……俺にその傷全部"譲渡"しろ」
手の甲に、焼けるような痛み。めぐりの言霊みたいだよな、これ。
/////
「…………ふざけてる様に見えるか、コレが」やれやれ顔で。
「…………じゃ、あ。」
その抵抗が、意味を成すより先に。
もう一画。
ゆっくり話をしたかった、と、思いつつ。
詩乃のヴェールを上げ。影のような薄布を取り去って胸に抱き。自身を対象として起動する。
……そもそもからして、まあ、大したことのない効果ではあるけども。
根本的に、"役者でない"俺達を、"黒子"にする効果をもつもの、である以上は。
「此方は"奈落"」舞台の底。
「我は"影"」表に立つもの、ではなく。
「令呪を持って命ずる」ここまでやって、届かない、はずもないと、思いたい。
「"言葉悟に関する一切の記憶を失え"」そして二度と思い出すな。
"知らない誰か"が相手であれば、"譲渡"、抵抗する理由ないだろ。
/////
「…………ッ、は、あ"」
声も出ない、だろ。肉も残らないか?まあ、まあ、なんだ。
痛みの麻痺、麻酔に近い効果を全力で回して。伝えたいことがある。もう届かなくても。
「…………管理、人。」
舌が動くだけ僥倖。宙に向かって。もう声になっているかも怪しい幽かな音声で。
「コイツ、――保、護。」
俺のことも、今の状況もわからなくても、待っていれば迎えは来る。連絡してあるし。
「……バラ――すなよ?」
これはこの場にいる全員にも向けて。地べたに倒れ込んだ肉塊から愛をこめて?笑みが作れてるかも、秘密にしろのジェスチャーも、出来ているかわからない。
そもそも顔残ってんのかな。声は出てるけど。
あとは。…………あとは。
何も言わないで、終われれば最高だったんだけど。本当は他に言いたいことはたくさんあるけど。知らん肉から話しかけられても、怖いだけだろうから。
「…………しあわせで、な」
愛してるから、お前は生きろ。
お前は知らんかもだけど、
お前は、俺が居なくても幸せになれるから、さ。
/////
最後に届いた声。
目は見えずとも理解していた。去り行く姿を脳裏に浮かべて、安心し。
奈落へ沈みこむように、舞台が遠ざかっていく。
星に背を向け、傍らの影は舞台に押し上げて、もう、独り。
手にかけたすべてに懺悔を。けれど、それ以上に。
背負う物の無くなったことに、安寧を覚えて。
それで、俺のぜんぶはおしまい。畳む
聖杯戦争TRPG、マスター時空の言葉悟の死に際。
責任感が強いがゆえに責任が嫌いな男。
>>1520の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
RPなのでお相手さんの短いレスポンスが挟まっているのですが、あれがそれなのでわたしの書いた部分のみ。
「…………はーーーー」
「頑張ったと思うんだけど、さ。まあ安心しろ」
「お前にはなんも背負わせないから」
これだけは、一番初め。出会った頃から決めていた。
運命じゃない。俺の選択で生まれた縁だ。あとを濁さない程度の始末はするさ。
まずは一画。
「令呪を持って命ずる。……俺にその傷全部"譲渡"しろ」
手の甲に、焼けるような痛み。めぐりの言霊みたいだよな、これ。
/////
「…………ふざけてる様に見えるか、コレが」やれやれ顔で。
「…………じゃ、あ。」
その抵抗が、意味を成すより先に。
もう一画。
ゆっくり話をしたかった、と、思いつつ。
詩乃のヴェールを上げ。影のような薄布を取り去って胸に抱き。自身を対象として起動する。
……そもそもからして、まあ、大したことのない効果ではあるけども。
根本的に、"役者でない"俺達を、"黒子"にする効果をもつもの、である以上は。
「此方は"奈落"」舞台の底。
「我は"影"」表に立つもの、ではなく。
「令呪を持って命ずる」ここまでやって、届かない、はずもないと、思いたい。
「"言葉悟に関する一切の記憶を失え"」そして二度と思い出すな。
"知らない誰か"が相手であれば、"譲渡"、抵抗する理由ないだろ。
/////
「…………ッ、は、あ"」
声も出ない、だろ。肉も残らないか?まあ、まあ、なんだ。
痛みの麻痺、麻酔に近い効果を全力で回して。伝えたいことがある。もう届かなくても。
「…………管理、人。」
舌が動くだけ僥倖。宙に向かって。もう声になっているかも怪しい幽かな音声で。
「コイツ、――保、護。」
俺のことも、今の状況もわからなくても、待っていれば迎えは来る。連絡してあるし。
「……バラ――すなよ?」
これはこの場にいる全員にも向けて。地べたに倒れ込んだ肉塊から愛をこめて?笑みが作れてるかも、秘密にしろのジェスチャーも、出来ているかわからない。
そもそも顔残ってんのかな。声は出てるけど。
あとは。…………あとは。
何も言わないで、終われれば最高だったんだけど。本当は他に言いたいことはたくさんあるけど。知らん肉から話しかけられても、怖いだけだろうから。
「…………しあわせで、な」
愛してるから、お前は生きろ。
お前は知らんかもだけど、
お前は、俺が居なくても幸せになれるから、さ。
/////
最後に届いた声。
目は見えずとも理解していた。去り行く姿を脳裏に浮かべて、安心し。
奈落へ沈みこむように、舞台が遠ざかっていく。
星に背を向け、傍らの影は舞台に押し上げて、もう、独り。
手にかけたすべてに懺悔を。けれど、それ以上に。
背負う物の無くなったことに、安寧を覚えて。
それで、俺のぜんぶはおしまい。畳む
ぜんぶの痛みへ嫌だって叫んでる
言葉めぐりが聖杯戦争TRPG(テキセ)でマスターしてたときに書いた奥義描写を拾ってきたやつ。
>>1521の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
これを放つまではもうちょっとただのふわふわギャグ女だった気がします。
――ただ、心のままに、我儘に。
どうすればいいのかは、頭ではなくその身に流れる血が知っている。
胸の中をめぐる言の葉を拾い集め、紡ぎあげ、放つ。
ただそれだけの為に、少女は息を吸った。
「嫌。」
辺り一帯を充たす魔力のおよそ全てが、少女の抱く思いに呼応し、ぐるりと渦を巻きはじめる。
めぐり、めぐる。言葉はめぐる。
そして、その中心を、貫く様に透明に。
――彼女の用いる言葉の力はただ声を届けるだけに在らず。
「"空が堕ちるくらいじゃ、私のフェル・ディアドは倒せない"……!!」
……思いは願いより鮮明で、言葉は祈りより克明だ。
英霊の背後で戦場を見据える齢16の少女には、目の前で起ころうとしていることが許せなかった。
だから、ただ純粋に【否定】した。
不器用で幼い彼女は、そうあって欲しくないと心が叫ぶものを、そうあって欲しくないとそのまま言葉にすることしかできなくて。
けれど、だからこそ、その言霊はどこまでも真っ直ぐに、透明に、そして何者にも濁されることはなく。
刮目せよ。
少女の願いは、然と世界へ聞き入れられた。
彼女の叫びに応え、渦を巻いていた魔力は空を、その在り様を否定する。
完全な消去そこ出来ずとも、それは確かにその勢いを殺す。
いま、この瞬間だけは。
それで、充分だった。畳む
言葉めぐりが聖杯戦争TRPG(テキセ)でマスターしてたときに書いた奥義描写を拾ってきたやつ。
>>1521の設定を添えてみるともうちょっとわかりやすいかも。
これを放つまではもうちょっとただのふわふわギャグ女だった気がします。
――ただ、心のままに、我儘に。
どうすればいいのかは、頭ではなくその身に流れる血が知っている。
胸の中をめぐる言の葉を拾い集め、紡ぎあげ、放つ。
ただそれだけの為に、少女は息を吸った。
「嫌。」
辺り一帯を充たす魔力のおよそ全てが、少女の抱く思いに呼応し、ぐるりと渦を巻きはじめる。
めぐり、めぐる。言葉はめぐる。
そして、その中心を、貫く様に透明に。
――彼女の用いる言葉の力はただ声を届けるだけに在らず。
「"空が堕ちるくらいじゃ、私のフェル・ディアドは倒せない"……!!」
……思いは願いより鮮明で、言葉は祈りより克明だ。
英霊の背後で戦場を見据える齢16の少女には、目の前で起ころうとしていることが許せなかった。
だから、ただ純粋に【否定】した。
不器用で幼い彼女は、そうあって欲しくないと心が叫ぶものを、そうあって欲しくないとそのまま言葉にすることしかできなくて。
けれど、だからこそ、その言霊はどこまでも真っ直ぐに、透明に、そして何者にも濁されることはなく。
刮目せよ。
少女の願いは、然と世界へ聞き入れられた。
彼女の叫びに応え、渦を巻いていた魔力は空を、その在り様を否定する。
完全な消去そこ出来ずとも、それは確かにその勢いを殺す。
いま、この瞬間だけは。
それで、充分だった。畳む
「救済」を抗えぬ欲として抱く女の、はじまりのはなし。
某所のキャンペーンに出すつもりだった女の子のオリジン。
ずっと、ずっとだ。
ずっと胸の奥が痛かった。
その痛みは、人と話している時なんかは静かに眠っていて、けれども確かにそこにあって、そこにあるんだという事だけは片時も忘れさせてくれない。
私は手足が動かない子供だった。昔からだ。とはいえ現代日本において手足が動かないことは、少なくとも昔ほどハンデではなく、私は『一般的な手足が動かない子供』として、普通に過ごしていた。
その日、私は定期検診のため、県内でも有数の総合病院へ兄と共に訪れていた。
病院の総合受付。10メートル四方程ある空間と、それに見合うだけの高い天井に施された大きな天窓が綺麗。
天窓に所々あしらわれた色とりどりのステンドグラスが太陽の光に色をつけ、陽だまりは暖かく、私は隣の兄と緩やかに談笑していた。
そんな安穏とした日常は、思いの外大きな音を、物理的にたてて崩れ去った。
*
崩れ落ちた壁。降り注ぐ天窓のガラスが、土煙の中きらきらとひかる。
病院特有の消毒液のにおいは、とうに血と臓物の異臭に上書きされて。
なにか柔らかいものが切り裂かれる音が、またひとつ。すぐ目の前から聞こえて。
どさりと、重いものが落ちる、音。
締め付けられて、喉がひりひりする。四肢と違って従順なはずの口も、舌も、震えるばかりでいうことを聞いてくれない。
べしゃりと地面に崩れ落ちた体を醜くも必死に動かし、半ばすがりつくようにお腹に大穴の空いた兄さんに覆い被さる。言葉が胸につかえて、胃袋から喉までが焼けるように熱い。
やがて、足音が近づくのを感じ、私は重いものを持ち上げるが如くぐっと顔を上げる。
頭上から、ひんやりとした声が聞こえた。
「かわいそうに。怖いの?」と、担い手の少女は首を傾げて囁く。
「泣かないで。だいじょうぶ、すぐ終わるから」
自分の頬に涙が伝っているのを、その時になって漸く自覚する。
……これは、なんの涙だろう。
「ばいばい、お姉ちゃん」
考える間もなく、甘くてつめたい声と共に、心象幻体の大剣が振り上げられる。
ああ――――、
鋒が煌めいた刹那、気づいた。
「……違うよ」
「……?」
私の声に、少女が手を止め首を傾げる。
「違う。怖いわけじゃない」
……こんなふうになってもまだ、私の心の底でぐつぐつと煮えたぎる欲望は消えてくれない。
「……?じゃあ、どうして」
そうだ、私は何も出来ない木偶の坊で、こんなことを思うのも望むのも烏滸がましいことこの上なくて、だから――、だから今だって、本当ははやくもっと大きな声を上げて、みっともなく助けを求めるべきなんだ。生にしがみつくように、何も出来ない私と、私を庇った兄さんを助けてって、声の限り叫ぶべきなんだ。
それでも。
恥ずかしい。浅ましい。烏滸がましい。声を上げる以外何も出来ないくせに。一人じゃまともに生活も出来ないくせに。
こんな風に大口を叩くなんて、私はきっとどうかしているんだ。
「私は可哀想なんかじゃない」
本当は、知っている。なにも違わないって。私は可哀想な女の子だ。
不幸な事故で夢に敗れて、父親を亡くして、唯一残った兄さんも今殺されてしまった、可哀想な女の子。
いやいやと首を横に振る。なにもかも馬鹿みたいで涙が出る。
――――手足が動かない人間が、遍くを助けたいと願うのはそんなにもいけないことなのだろうか。畳む
某所のキャンペーンに出すつもりだった女の子のオリジン。
ずっと、ずっとだ。
ずっと胸の奥が痛かった。
その痛みは、人と話している時なんかは静かに眠っていて、けれども確かにそこにあって、そこにあるんだという事だけは片時も忘れさせてくれない。
私は手足が動かない子供だった。昔からだ。とはいえ現代日本において手足が動かないことは、少なくとも昔ほどハンデではなく、私は『一般的な手足が動かない子供』として、普通に過ごしていた。
その日、私は定期検診のため、県内でも有数の総合病院へ兄と共に訪れていた。
病院の総合受付。10メートル四方程ある空間と、それに見合うだけの高い天井に施された大きな天窓が綺麗。
天窓に所々あしらわれた色とりどりのステンドグラスが太陽の光に色をつけ、陽だまりは暖かく、私は隣の兄と緩やかに談笑していた。
そんな安穏とした日常は、思いの外大きな音を、物理的にたてて崩れ去った。
*
崩れ落ちた壁。降り注ぐ天窓のガラスが、土煙の中きらきらとひかる。
病院特有の消毒液のにおいは、とうに血と臓物の異臭に上書きされて。
なにか柔らかいものが切り裂かれる音が、またひとつ。すぐ目の前から聞こえて。
どさりと、重いものが落ちる、音。
締め付けられて、喉がひりひりする。四肢と違って従順なはずの口も、舌も、震えるばかりでいうことを聞いてくれない。
べしゃりと地面に崩れ落ちた体を醜くも必死に動かし、半ばすがりつくようにお腹に大穴の空いた兄さんに覆い被さる。言葉が胸につかえて、胃袋から喉までが焼けるように熱い。
やがて、足音が近づくのを感じ、私は重いものを持ち上げるが如くぐっと顔を上げる。
頭上から、ひんやりとした声が聞こえた。
「かわいそうに。怖いの?」と、担い手の少女は首を傾げて囁く。
「泣かないで。だいじょうぶ、すぐ終わるから」
自分の頬に涙が伝っているのを、その時になって漸く自覚する。
……これは、なんの涙だろう。
「ばいばい、お姉ちゃん」
考える間もなく、甘くてつめたい声と共に、心象幻体の大剣が振り上げられる。
ああ――――、
鋒が煌めいた刹那、気づいた。
「……違うよ」
「……?」
私の声に、少女が手を止め首を傾げる。
「違う。怖いわけじゃない」
……こんなふうになってもまだ、私の心の底でぐつぐつと煮えたぎる欲望は消えてくれない。
「……?じゃあ、どうして」
そうだ、私は何も出来ない木偶の坊で、こんなことを思うのも望むのも烏滸がましいことこの上なくて、だから――、だから今だって、本当ははやくもっと大きな声を上げて、みっともなく助けを求めるべきなんだ。生にしがみつくように、何も出来ない私と、私を庇った兄さんを助けてって、声の限り叫ぶべきなんだ。
それでも。
恥ずかしい。浅ましい。烏滸がましい。声を上げる以外何も出来ないくせに。一人じゃまともに生活も出来ないくせに。
こんな風に大口を叩くなんて、私はきっとどうかしているんだ。
「私は可哀想なんかじゃない」
本当は、知っている。なにも違わないって。私は可哀想な女の子だ。
不幸な事故で夢に敗れて、父親を亡くして、唯一残った兄さんも今殺されてしまった、可哀想な女の子。
いやいやと首を横に振る。なにもかも馬鹿みたいで涙が出る。
――――手足が動かない人間が、遍くを助けたいと願うのはそんなにもいけないことなのだろうか。畳む
冬の海で死ぬなら崖から飛び込むとかの方が上手くいきそう
2024年書き納め。自分を庇って槻宮倫太郎が死んでしまい、心が砕けた図地藤華が言葉めぐりと一緒に冬の海で死のうとする話。
冬の海、夜、砂浜から波打ち際、膝までつめたい海水に浸かって。
半歩先、ざぶざぶ深みへ進んでいく藤華の横顔を追いかけるように、私も沖の方向へと足を進める。
まわりはお互いの姿も見えないくらい暗くて、水を掻き分け進む足音は、風の音と波の音にかき消されてしまう。
海に浸かった下半身よりも、顔と手が冷たかった。繋いだ指先の感覚がもうない。
見えないし聞こえないし感じないから、私も藤華も、なんだかもうそこにいないみたいだった。
「さむいね」
立ち止まり呟いたのは、藤華がまだいるんだってことを確かめたかったからだ。
けど、たぶん……聞こえなかったのかな。
藤華は気づかないまま、また一歩進んで。
ふたりの距離が開いて、繋いだ腕がぴんと伸びて。
それでやっと私が止まったことに気づいたようで、藤華はこちらを振り返る。
海面の高さは藤華の腰、私のお腹くらいで、波が寄せ返す度ちょっと体がもっていかれる。
ぐらぐら揺れながら。やっぱり暗くて、藤華の髪も瞳も、私の目にはなにも見えない。
それでも、なんとなくだけど、藤華は私と目を合わせてくれている気がした。
一生懸命耳を澄ますと、風と波の隙間から藤華の呼吸の音が聞こえる。
ぎゅっと繋いだ手に力を込めて、緩めてを繰り返せば、鈍くても藤華の骨ばった指の感触を感じて。
「……かえろ」
深く考えて発した言葉じゃなかった。
口が先に動いて、理由は後から追いついた。
「……帰らない」
「かえろうよ」
「なんで。」
「んー……」
手を引く。
藤華が、一歩私の方……陸側へとよろめき戻る。
「かえってさ」
「……」
「シチューとかたべようよ」
「…………一緒に来てくれるんじゃなかったの」
「……ちゃんとついてくよ」
まだ海の方へ体が向いている、藤華の正面側へ。今度は私が、時間をかけてじゃぶじゃぶ移動して。
離すと見失っちゃいそうだから、手は繋いだまま。
「でも、もうちょっとあったかいところで死のう?」
空いた手を伸ばし、ぺたぺたと藤華の側面を触って。だらんと垂れて水に浸かっていた、藤華のもう片方の手を探り当て、掬い上げ。
「だって、藤華すごい寒そうだよ」
「……」
藤華の影かたちがちょっと揺れて。
一呼吸のあと、掴んだ手がやんわりと握り返される。
私はそれを「わかった」と受け取って、両手を繋ぎ合ったまま、舞踏会で踊るみたいにぐるっと180度回転した。
海側の私が陸側へ。陸側の藤華が海側へ。
私はそのまま、後ろ歩きで藤華を陸の方へ引っ張っていく。
「……寒いから、ついていくけど」
藤華がぼそっと零した声が、きちんと私に届く距離。
「それでも寒いのは変わんないな」って思いながら、私が頷くのが、藤華へ気配で伝わる距離。
「転んだらそのまま沈めるから」
「こわっ」
物騒な言葉にぎょっとする。
ぜんぜん笑えないけど、冗談が言えるならあとすこしの間は、たぶん大丈夫。
藤華んちの近所のコンビニって、野菜売ってたかな。
海の香りに、クラムチャウダーもいいなあとか、呑気に考えるのはただの現実逃避だ。
でも、藤華が最期の一瞬、他の何でもなく「寒いな」って思うとしたら、それは私にはどうしても嫌だったから。
だから、もう少しだけ。
耳を塞いで、痛みを遠ざける弱さを。
藤華を「生きてる」に繋ぎ止める我儘を。
私は私へ、身勝手に許していたかったのだ。畳む
2024年書き納め。自分を庇って槻宮倫太郎が死んでしまい、心が砕けた図地藤華が言葉めぐりと一緒に冬の海で死のうとする話。
冬の海、夜、砂浜から波打ち際、膝までつめたい海水に浸かって。
半歩先、ざぶざぶ深みへ進んでいく藤華の横顔を追いかけるように、私も沖の方向へと足を進める。
まわりはお互いの姿も見えないくらい暗くて、水を掻き分け進む足音は、風の音と波の音にかき消されてしまう。
海に浸かった下半身よりも、顔と手が冷たかった。繋いだ指先の感覚がもうない。
見えないし聞こえないし感じないから、私も藤華も、なんだかもうそこにいないみたいだった。
「さむいね」
立ち止まり呟いたのは、藤華がまだいるんだってことを確かめたかったからだ。
けど、たぶん……聞こえなかったのかな。
藤華は気づかないまま、また一歩進んで。
ふたりの距離が開いて、繋いだ腕がぴんと伸びて。
それでやっと私が止まったことに気づいたようで、藤華はこちらを振り返る。
海面の高さは藤華の腰、私のお腹くらいで、波が寄せ返す度ちょっと体がもっていかれる。
ぐらぐら揺れながら。やっぱり暗くて、藤華の髪も瞳も、私の目にはなにも見えない。
それでも、なんとなくだけど、藤華は私と目を合わせてくれている気がした。
一生懸命耳を澄ますと、風と波の隙間から藤華の呼吸の音が聞こえる。
ぎゅっと繋いだ手に力を込めて、緩めてを繰り返せば、鈍くても藤華の骨ばった指の感触を感じて。
「……かえろ」
深く考えて発した言葉じゃなかった。
口が先に動いて、理由は後から追いついた。
「……帰らない」
「かえろうよ」
「なんで。」
「んー……」
手を引く。
藤華が、一歩私の方……陸側へとよろめき戻る。
「かえってさ」
「……」
「シチューとかたべようよ」
「…………一緒に来てくれるんじゃなかったの」
「……ちゃんとついてくよ」
まだ海の方へ体が向いている、藤華の正面側へ。今度は私が、時間をかけてじゃぶじゃぶ移動して。
離すと見失っちゃいそうだから、手は繋いだまま。
「でも、もうちょっとあったかいところで死のう?」
空いた手を伸ばし、ぺたぺたと藤華の側面を触って。だらんと垂れて水に浸かっていた、藤華のもう片方の手を探り当て、掬い上げ。
「だって、藤華すごい寒そうだよ」
「……」
藤華の影かたちがちょっと揺れて。
一呼吸のあと、掴んだ手がやんわりと握り返される。
私はそれを「わかった」と受け取って、両手を繋ぎ合ったまま、舞踏会で踊るみたいにぐるっと180度回転した。
海側の私が陸側へ。陸側の藤華が海側へ。
私はそのまま、後ろ歩きで藤華を陸の方へ引っ張っていく。
「……寒いから、ついていくけど」
藤華がぼそっと零した声が、きちんと私に届く距離。
「それでも寒いのは変わんないな」って思いながら、私が頷くのが、藤華へ気配で伝わる距離。
「転んだらそのまま沈めるから」
「こわっ」
物騒な言葉にぎょっとする。
ぜんぜん笑えないけど、冗談が言えるならあとすこしの間は、たぶん大丈夫。
藤華んちの近所のコンビニって、野菜売ってたかな。
海の香りに、クラムチャウダーもいいなあとか、呑気に考えるのはただの現実逃避だ。
でも、藤華が最期の一瞬、他の何でもなく「寒いな」って思うとしたら、それは私にはどうしても嫌だったから。
だから、もう少しだけ。
耳を塞いで、痛みを遠ざける弱さを。
藤華を「生きてる」に繋ぎ止める我儘を。
私は私へ、身勝手に許していたかったのだ。畳む
私はきゅーくんがすきってはなしです
水上雫さんの心象。
手を引かれ、誘われたのは文字通りの地獄でした。
救い出され、身を置いた楽園は踏み躙られました。
命を賭して遂げた復讐は、私に何も与えませんでした。
虚ろの底、差し伸べられた手に縋りついて、自分の明日を守るため大勢の人を地獄へと堕としました。
最愛の人を縊り殺したのは他でもない貴方だったのに、そうと知らずに愛してしまいました。
私の空はずっとあかくて、くらいまま。
降り注ぐ生温かい液体を舌に乗せると、重い鉄の味がします。
私は救われないでしょう。
そういう形にうまれて、そういう風に扱われて、そういう星の廻りに行き当たって。
縋るように間違えてしまったから。
ならまあせめて、今隣にいる貴方との心地よさを守りたいと思います。
無彩色の貴方は地獄の赤より目に優しいし、ひんやりしているから寄り添うのに丁度よいのです。
最愛の仇ですが。あ、これダブルミーニングですね!
……私の間違いがどうしようもなかったように、貴方の間違いもまたどうしようもなかったんだって、私にはわかってしまうので。
だから、最期の一瞬まで、ふたりでわるものでいましょう!
なっちゃったもんはもう、どうしようもないですから。
不幸せに笑って死にましょう!
欲を言うなら、貴方の隣で。
できるだけ、綺麗な死に顔でいられたらうれしいなあ、とは。思いますけどね。畳む
水上雫さんの心象。
手を引かれ、誘われたのは文字通りの地獄でした。
救い出され、身を置いた楽園は踏み躙られました。
命を賭して遂げた復讐は、私に何も与えませんでした。
虚ろの底、差し伸べられた手に縋りついて、自分の明日を守るため大勢の人を地獄へと堕としました。
最愛の人を縊り殺したのは他でもない貴方だったのに、そうと知らずに愛してしまいました。
私の空はずっとあかくて、くらいまま。
降り注ぐ生温かい液体を舌に乗せると、重い鉄の味がします。
私は救われないでしょう。
そういう形にうまれて、そういう風に扱われて、そういう星の廻りに行き当たって。
縋るように間違えてしまったから。
ならまあせめて、今隣にいる貴方との心地よさを守りたいと思います。
無彩色の貴方は地獄の赤より目に優しいし、ひんやりしているから寄り添うのに丁度よいのです。
最愛の仇ですが。あ、これダブルミーニングですね!
……私の間違いがどうしようもなかったように、貴方の間違いもまたどうしようもなかったんだって、私にはわかってしまうので。
だから、最期の一瞬まで、ふたりでわるものでいましょう!
なっちゃったもんはもう、どうしようもないですから。
不幸せに笑って死にましょう!
欲を言うなら、貴方の隣で。
できるだけ、綺麗な死に顔でいられたらうれしいなあ、とは。思いますけどね。畳む
気づいてるのは知ってたし触れずにおいてくれればよかったのに
図地藤華ってこういうことするよな、のやつ。
めぐりが図地君を好きになる感じのifです。
このifにおいて、図地藤華は言葉めぐりが………………うーーーーーーーん…………幸せにする気は微塵もないですが…………。
言葉めぐりの感情は非常にわかりやすい。
そのまなざしに。はにかみに。
仄かに纏っていたものが、少しずつ積み重なり、滲み出して。
「めぐりさんって僕のこと好きなの?」
「え?」
こんなにもわかりやすい癖に、指摘されれば虚をつかれたような顔をするのでいっそ面白い。
「すき、だけど……」
如何にも「あんまり突然の事で、取り繕うこともできないまま思ったことが口から出ました」といった声だった。
「じゃ、付き合おうか」
「は。え、何に?」
「何にって……」
あえて大げさに肩を竦め、ため息をついて見せる。
対するめぐりさんは、実にわかりやすく、明らかにこの場から逃げ出したがっていた。
当惑した表情のまま目を逸らした先には、この空間の唯一の出入り口であるドアがひとつ。自分を庇うように手を手で握り、少し椅子を引いて。
まあ、逃がすつもりはないし、本人も逃げられるとは微塵も思っていないだろうけど。
「僕と男女交際関係になりませんか?って聞いてるんだけど」
「なんで?」
珍しく、苛立ちを感じる声だった。
「僕もめぐりさんのことが好きだから」
「うそ。それは絶対に嘘」
「どうして?」
「どうしても、だよ。なんとなくわかるもん」
畳む
図地藤華ってこういうことするよな、のやつ。
めぐりが図地君を好きになる感じのifです。
このifにおいて、図地藤華は言葉めぐりが………………うーーーーーーーん…………幸せにする気は微塵もないですが…………。
言葉めぐりの感情は非常にわかりやすい。
そのまなざしに。はにかみに。
仄かに纏っていたものが、少しずつ積み重なり、滲み出して。
「めぐりさんって僕のこと好きなの?」
「え?」
こんなにもわかりやすい癖に、指摘されれば虚をつかれたような顔をするのでいっそ面白い。
「すき、だけど……」
如何にも「あんまり突然の事で、取り繕うこともできないまま思ったことが口から出ました」といった声だった。
「じゃ、付き合おうか」
「は。え、何に?」
「何にって……」
あえて大げさに肩を竦め、ため息をついて見せる。
対するめぐりさんは、実にわかりやすく、明らかにこの場から逃げ出したがっていた。
当惑した表情のまま目を逸らした先には、この空間の唯一の出入り口であるドアがひとつ。自分を庇うように手を手で握り、少し椅子を引いて。
まあ、逃がすつもりはないし、本人も逃げられるとは微塵も思っていないだろうけど。
「僕と男女交際関係になりませんか?って聞いてるんだけど」
「なんで?」
珍しく、苛立ちを感じる声だった。
「僕もめぐりさんのことが好きだから」
「うそ。それは絶対に嘘」
「どうして?」
「どうしても、だよ。なんとなくわかるもん」
畳む
落下
なんかあったし使わなそうなのでここに置いときます。
図地藤華が「作戦の一部」として落下したらめぐりが追いかけて飛び込んできちゃったらしい。
僕は、彼女が必死へ腕を伸ばすのを見た。
彼女の、泣きそうな顔を見た。
そして、投げ出した僕の手にあの熱い指先が触れるのを見た。
計画が滅茶苦茶だ。思考に反して、僕は彼女の手を掴んでいた。
彼女は繋いだ手から手繰り寄せる様に僕との距離を縮め、僕は何一つ反応出来ないまま言葉めぐりに抱え込まれる。
手に触れた時とは比べ物にならないくらい明確に、今ここにいる彼女の熱を感じた。白檀と、遅れて甘ったるい香りが肺を満たす。守る様に頭の後ろへ腕を回される。地面まであとどれ位だろうか。
畳む
なんかあったし使わなそうなのでここに置いときます。
図地藤華が「作戦の一部」として落下したらめぐりが追いかけて飛び込んできちゃったらしい。
僕は、彼女が必死へ腕を伸ばすのを見た。
彼女の、泣きそうな顔を見た。
そして、投げ出した僕の手にあの熱い指先が触れるのを見た。
計画が滅茶苦茶だ。思考に反して、僕は彼女の手を掴んでいた。
彼女は繋いだ手から手繰り寄せる様に僕との距離を縮め、僕は何一つ反応出来ないまま言葉めぐりに抱え込まれる。
手に触れた時とは比べ物にならないくらい明確に、今ここにいる彼女の熱を感じた。白檀と、遅れて甘ったるい香りが肺を満たす。守る様に頭の後ろへ腕を回される。地面まであとどれ位だろうか。
畳む
葬式
めぐりが死んで、通夜のあと言葉悟が寝ずの晩をする話を書こうとした痕跡。
そういえば言葉家って神道のおうちだったじゃんとなり、仏教のお葬式とはいろいろ様式がちがそうだったので没になった。
高校卒業の折に買い与えられた喪服へ初めて袖を通すのが、まさかお前の葬式になるなんて。
――言葉めぐりが死んだ。
そう聞かされたのが昨日の午後のこと。
母さんから電話がかかってきた時、俺は普通に大学で講義受けてて。
「講義中だっつの」と思いながら出ずに切って、そしたら追ってLINEの通知が光って。
思わず立ち上がって。
……まあ、俺いつも後ろの方の席にいるから、別に目立つこともなく中抜けして、電話折り返して。
その突然さも、「人を生き返らせる代償として自分の命を差し出した」という死因すら、俺が常日頃から恐れていたもの、そのままで。
何度か悪夢に見たことすらある。デジャヴがすごかった。
帰りの電車の中で、ドア脇の手摺へゴツ、と、少しだけ強めに頭を預けてみて。
普通に痛いし、目も覚めないので、ああ、なんて「悪夢」だと。そう思ったんだっけ。
暗い室内。のぼる煙が一筋。
線香の香りが染み付いた空気を胸いっぱい吸い込んでから、揺れる蝋燭の火をぼんやりとながめ、息をついて伸びをした。
憔悴した様子の伯母さんも、歳のせいかヘトヘトだったおばあも、なんのかんのめぐりを可愛がってた父さん母さんも、他、通夜に参列した親族友人知人一同も、皆帰った。
俺だけが斎場に残り骸の傍らに居る現状は、いわゆる寝ずの番と言うやつで。
現代の葬式においては省略されがちな、「誰かがやらなければならない」ことですらないお役目を俺が仕っているのは……まあ、「やりたかった」以上でも以下でもない。
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めぐりが死んで、通夜のあと言葉悟が寝ずの晩をする話を書こうとした痕跡。
そういえば言葉家って神道のおうちだったじゃんとなり、仏教のお葬式とはいろいろ様式がちがそうだったので没になった。
高校卒業の折に買い与えられた喪服へ初めて袖を通すのが、まさかお前の葬式になるなんて。
――言葉めぐりが死んだ。
そう聞かされたのが昨日の午後のこと。
母さんから電話がかかってきた時、俺は普通に大学で講義受けてて。
「講義中だっつの」と思いながら出ずに切って、そしたら追ってLINEの通知が光って。
思わず立ち上がって。
……まあ、俺いつも後ろの方の席にいるから、別に目立つこともなく中抜けして、電話折り返して。
その突然さも、「人を生き返らせる代償として自分の命を差し出した」という死因すら、俺が常日頃から恐れていたもの、そのままで。
何度か悪夢に見たことすらある。デジャヴがすごかった。
帰りの電車の中で、ドア脇の手摺へゴツ、と、少しだけ強めに頭を預けてみて。
普通に痛いし、目も覚めないので、ああ、なんて「悪夢」だと。そう思ったんだっけ。
暗い室内。のぼる煙が一筋。
線香の香りが染み付いた空気を胸いっぱい吸い込んでから、揺れる蝋燭の火をぼんやりとながめ、息をついて伸びをした。
憔悴した様子の伯母さんも、歳のせいかヘトヘトだったおばあも、なんのかんのめぐりを可愛がってた父さん母さんも、他、通夜に参列した親族友人知人一同も、皆帰った。
俺だけが斎場に残り骸の傍らに居る現状は、いわゆる寝ずの番と言うやつで。
現代の葬式においては省略されがちな、「誰かがやらなければならない」ことですらないお役目を俺が仕っているのは……まあ、「やりたかった」以上でも以下でもない。
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